10の話

好楽の話

訪問先の大谷さまは、心臓手術のあと脳梗塞・左片麻痺の障害を乗り越えながら、
家事や洗濯などをこなしてがんばっています。
私は清拭、足浴を手伝い、大谷さまのいろんな話を聞いたりしています。
ある日の訪問で、大谷さまのお顔が膨れあがっているのに気がつきました。
「待ってたのよ。夫に暴力を振るわれちゃった。息子や嫁に話すわけにいかないし、
ヘルパーさんにも言えない。だから、あなたに聞いてもらおうと思ってたの。
でも、顔を見たらほっとしたわ。もういいのよ」
障害をもつうえに、そのように認めたくない事件が起きて、
大谷さまはひとりで数日間をすごしていたのです。
「なんでも話せる人がひとりでもいるから、なんとかやっていられるわ」
大谷さまは静かにつぶやきました。
やがて普段の元気を取り戻すようになったころ、私にこんなことを言いました。
「お弁当をとるのを止めて、毎日貯金するようにしたわ」
「なにか大きなものでも買うのですか?」
「そうよ、大きな夢よ。『ローマの休日』って知ってる?
お金を貯めて、あの映画にでてきた広場でアイスクリームを食べるの。一緒に食べてくれる?」
私はよろこんで返事をしました。
息子さんと同じ歳の私に、大谷さまは明るく前向きなお誘いをしてくれました。

越谷南部訪問看護ステーション 好楽(こうらく)

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