10の話

南面の話

うつ症状がみられる熟成者の山本さまは、頭を上げることもできなかったので、
私は顔も名前も覚えてもらえなかっただろうと思っていました。
担当が代わって半月後、別のスタッフが山本さまのところに行くと、
「よくきてくれていたかたとは違いますね」と話したそうです。
山本さまにはちゃんと私の声を覚えてもらえていたのです。

あるトラブルの仲裁に駆けつけた私は、熟成者の二宮さまに、
「新人のあなたになにがわかるの!」と叱られてしまいました。
私は申しわけない気持ちと悔しさとで、たいへん動揺しました。
すると次の日、二宮さまは私に
「きのうはカッとしてごめんね」と謝りました。
新人の私は、熟成者の気持ちをもっとよく理解し、
共感しながらおつきあいすることの必要を感じました。
言葉ひとつかけることの難しさを学び、成長しています。

身体が不自由な熟成者はときどき、こんなことを話します。
「もう生きていてもしようがない。はやく死んじゃいたい」
そうした言葉に対して、どんな接しかたが正しいのか、
おひとりおひとりの心の痛みにどうしたら届くのか、いつも私たちは考えます。
また、片麻痺のある工藤さまはこう言います。
「私はこの病気になってよかった。病気になっていろんなことを勉強していますから」
私たちの仕事は、応援すること、
お手伝いすることばかりではありません。
工藤さまのように前向きな姿勢と意欲に出会って、
心を動かし、学ぶことも大切にしています。

→ 介護老人保健施設 南面(なんめん)

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